みなさん、こんにちは!かさはら歯科医院、歯科医師の岩谷です。
梅雨があけて夏本番となりましたが、いかがお過ごしでしょうか。
先日、虫歯の治療について相談に来られた患者さんから、
「先生、大きい虫歯があって神経を取る治療が必要になると言われたんだけど、神経を取ると歯が脆くなるって本当?!」と聞かれました。神経を取ると血流がなくなり歯に栄養が行き渡らず、歯は枯れ木のようになり脆くなるので神経を取らない方が良いという説明をしばしば耳にします。根の治療を行った歯は、歯の活力と歯質を失うことで破折しやすくなるという考えが基になっているようです。本当に神経を取ると歯は脆くなるのでしょうか。
本日は、神経の有無による歯の強度についてのお話をいたします。
これまで、神経を取った歯の強度の変化について様々な研究が行われてきました。1972年にHelferらにより神経のない歯は神経のある歯と比べて水分含有量が9%少ないことが報告されました(※1)。この報告を受けて、多くの研究者は水分ロスが歯の脆性を増加させ、歯の破折リスクを高めると考えました。しかしながら、水分ロスのみで象牙質が脆くならないことが1992年にHuangらにより報告されています(※2)。水分ロスにより歯の弾性がやや低下しますが、圧縮強度と引っ張り強度に変化は見られませんでした。また、同年の1992年にSedgleyとMesserも同様に神経の有無は歯の機械的強度に影響がないことを示しています(※3)。以上のことより、神経を取ると決して歯は枯れ木のように脆くはならないことが分かります。1989年に報告されたReehとMesserの研究によると、神経を取った歯は、歯の剛性を5%しか減少させないことが分かっています(※4)。この実験では、①根の治療後に被せ物を入れるための形づくり(窩洞形成:MOD)を行ったものと、②窩洞形成後(Ⅰ級、Ⅱ級、MOD)に根の治療を行ったものの歯の剛性を調べた結果、①ではMOD窩洞形成後に歯の剛性は70%低下し、②では歯の咬む面(歯冠幅径)の3分の1を削った場合、歯の剛性は20%減少し、3分の1を超える(辺縁隆線を含む)Ⅱ級窩洞形成では歯の剛性は46%低下、MOD形成では63%低下、その後の根の治療ではわずか5%の低下が見られました。つまり、根の治療では歯の剛性に大きな変化は見られず、辺縁隆線を超える歯の切削によって歯の剛性は大きく低下することが示唆されています。
”神経の有無によって歯の強度に大きな変化は見られない”というのが答えです。
まだまだ暑い日が続きます。くれぐれもご自愛ください。
<参考文献>
※1. Helfer AR, Melnick S, et al. Determination of the moisture content of vital and purples teeth. Oral Surgeon Oral Med Oral Pathol. 1972; 34(4): 661-670.
※2. Huang TJ, Schilder H, et al. Effects of moisture content and endodontic treatment on some mechanical properties of human dentin. J Endod, 1992; 18(5): 209-215.
※3. Sedgley CM, Messer HH. Are endodontically treated teeth more brittle? J Endod, 1992; 18(7): 332-335.
※4. Reeh ES, Messer HH, et al. Reduction in tooth stiffness as a result of endodontic and restorative procedures. J Endod. 1989; 15(11): 512-516.