みなさん、こんにちは。歯科医師の伊勢円です。
今回は虫歯についてです。
みなさん歯はとても硬いということはもちろんご存知かと思います。そんな歯がなぜ虫歯で穴があいてしまうか知っていますか?
歯の表面にはエナメル質という組織があり、95%のハイドロキシアパタイト、1%の有機質、4%の水分から構成されています。ダイヤモンドを使わないと削れないくらい、とても硬い組織です。ハイドロキシアパタイトは化合物であるため、条件によってはイオン化して溶解する性質をもっています。
歯は酸に弱いです。唾液のpHが低下して唾液中の水素イオンが増えると、ハイドロキシアパタイトのもつ水酸基が水素イオンと反応して、ハイドロキシアパタイト結晶は溶解し、カルシウムイオンが溶出します。虫歯は、口腔内の常在菌が酸性した酸によってハイドロキシアパタイトが溶けることによって起こるのです。これを酸脱灰説といいます。(1890年Miller提唱)
ハイドロキシアパタイトはおよそpH5.5で急速に溶解し始めます。この値を臨界pHといいます。歯の表面のpHは常在菌だけでなく、唾液、生活習慣などの影響も受けています。つまり、虫歯の発生、進行には様々な因子が複雑に絡んでいると考えられます。
Keyesの3つの輪という説をご存じでしょうか?虫歯は細菌、糖質、宿主が主な原因であり、これらが重なり合ったときに発生する、という説です。現在では、これに時間を加えた4つの因子、生活環境や社会的要因が虫歯の発生と進行に関与していると考えられています。(Newbrun提唱)
これらの因子がすべて取り除ければ虫歯になることはありません。ただ、どれも完全に取り除くのは不可能ですよね…。
4つの因子のうち、細菌に関して、口腔内の全ての常在細菌が虫歯に関与しているわけではありません。しかし、虫歯に関係する細菌の種類は多く、詳しいことはよく分かっていないのが現状です。
ただ、虫歯の病巣から検出される細菌にはいくつか特徴があります。
寄り集まったり、歯に付着したりすること
糖から酸を産生すること
酸性の環境下でも適応して増殖すること
です。これらの特徴をもつ細菌を齲蝕関連細菌といいます。
細菌は糖を代謝して酸を産生しますが、酸産生の能力が高い細菌としてミュータンスレンサ球菌がいます。細菌によって産生された酸は、エナメル質を構成するハイドロキシアパタイトを溶かします。酸産生が増えて周囲の環境が酸性になると、それに適応できる細菌が生き残り、増殖します。これを細菌の適応といい、細菌が環境の変化を起こし、構成を変えることを細菌叢のシフトといいます。
正しい知識を持ち、少し生活習慣を変えるだけで虫歯になる可能性は減らすことができます。4つの因子にアプローチして輪を小さくしていくのが大切ですね。