21世紀の歯周病

天気が不安定な日が続きますね。体調には気をつけて下さいね。

歯科医師の鈴木 敬です。

今回は歯周病の歴史についてお伝えしていきます。

歯周病は初めから解明されていた訳ではありません。病因論にも歴史があります。

・主原因

1930年ごろは歯石が原因と考えられてきました。歯石を取ることで歯周状態が改善する事が多かったためです。ですが、

21世紀ではバイオフィルム(プラーク)が主原因と考えられています。歯石自体には強い歯周病原性はありませんが、粗造な歯石表面はバイオフィルム形成の格好の場所となるため、バイオフィルムによる歯周病の炎症、進行が促進されます。他に、不適合修復物、義歯、矯正装置、歯列不正、食片圧入などもバイオフィルム形成を促進する因子です。

・原因菌、感染時期、部位特異性

原因菌は、10数種の歯周病原性菌と考えられていました。嫌気培養法の発達により、1975年

ごろから重度の歯周病患者から10数種の嫌気性菌が高頻度で検出されたため、これらの菌種が歯周病に関係していると考えられました。ですが、動物を使った歯周病モデルがまだ存在しなかったために、これらの菌が本当に歯周病を起こすかどうかはわかりませんでした。そのため、歯周病原性菌あるいは、歯周病関連菌と呼ばれました。

最近では、レッドコンプレックスと呼ばれるP.gingivalis,Tannerella forsythia,Treponema denticolaの3菌種が歯周病菌とされています。

感染時期は、嫌気性菌を培養できるようにはなったものの、この時代の細菌検査法には限界がありました。歯周炎の発症が間近となり、歯周病原性菌の数が増えるまでは検出できなかったのです。そのため、当時は歯周病原性菌が感染して間も無く歯周炎が発症するとされ、健康な歯周組織には歯周病菌は感染していないと考えられていました。ですので、歯周病好発年齢である中年期前に歯周病菌がどこからか唾液感染すると推測されていました。

最近では、歯周病菌は思春期前後に感染する事がわかっています。T.forsythiaとT.denticolaは小中高生の頃に感染し、P.gingivalisは18歳以降に感染します。

部位特異性は、細菌検査法の感度が低かったせいで、歯周病菌は深いポケットからは検出されるが、浅いポケットからは検出されませんでした。そのため、歯周病菌が定着しやすい歯と、しにくい歯があると考えられ、歯周病発症には部位特異性があるとされていました。

現在では、高感度になった細菌DNA検査によって、歯周病の感染には、部位特異性はない事が示されました。歯周病菌は唾液によって、すべての歯の歯周組織に感染します。

・歯周病に対する抵抗力

歯周病菌のDNAを検出する方法が開発され、これまでの培養法に比べてはるかに高感度で歯周病菌の検出が行なえるようになりました。その結果、歯周病菌が検出されるにも関わらず、歯周病の症状を示していない人が多数いる事がわかりました。また、同じ歯周病菌の感染を受けても、歯周病の重症度は患者さんごとに大きく異なることから、歯周組織の抵抗力には個人差があり、これが歯周病の発症・進行を左右する原因とされました。

全身と歯周組織の免疫力と抵抗力が同じで、バイオフィルムにも同じ歯周病菌がいるAさんとBさんがいます。同じ歯周病菌がいるからといって、バイオフィルムの病原性は同じとは言えません。

バイオフィルムの病原性は歯周ポケットの状態によって変わるのです。特に、ポケットから出血があるとき、バイオフィルムは高い病原性を持つようになり、歯周病は進行します。20世紀には、バイオフィルムの病原性が変化する事は知られていなかったので、同じ歯周病菌の感染でも歯周病の重症度が異なるのは、歯周組織の抵抗力の個人差とされたのです。しかし、歯周病の発症・進行には歯周組織の抵抗力の個人差も関係していることは確かです。

歯周病に対する考え方もどんどん新しくなっています。         (ペリオドントロジーダイジェストより)