指しゃぶりについて①

こんにちは、小児歯科専門医の中村 友昭です。

今回は、指しゃぶりについてお話しさせていただきます。

 

指しゃぶりに関しては、各専門領域あるいは個人間でも様々な意見や見解があり、指しゃぶりへの対応に対する考え方の統一は難しいところです。しかしながら、対応が遅れると歯科的には歯並びの異常を来たし、さらにそれに付随した発音や嚥下に関する影響が生涯にわたって継続することもあります。

そこで、今回は平成18年に行われた『小児科と小児歯科の保健検討委員会』で出された見解をもとにして、指しゃぶりについて現時点での考え方や対応についてご紹介させて頂きます。

 

1.子どもの発達と指しゃぶり

1)胎児期:胎生14週頃より口に手を持っていき、24週頃には指を吸う動きが出てくる。そして、32週頃より指を吸いながら羊水を飲み込む動きも出てくる。胎生期の指しゃぶりは生まれて直ぐに母乳を飲むための練習として重要な役割を果たしていると考えられます。

2)乳児期:生後2~4か月では口のそばにきた指や物を捉えて無意識に吸う。5か月頃になると、なんでも口に持っていってしゃぶる。これらは目と手の協調運動の学習とともに、いろいろな物をしゃぶって形や味、性状を学習するためと考えられる。つかまり立ち、伝い歩き、ひとり立ちや歩き始める頃は指しゃぶりをしているとこれらの動作ができないので減少する傾向にある。

3)幼児期前半(1~2歳):積み木を積んだり、おもちゃの自動車を押したり、お人形を抱っこしたりする遊びがみられるようになると、昼間の指しゃぶりは減少し、退屈なときや眠いときにのみ見られるようになる。

4)幼児期後半(3歳~就学前まで):母子分離ができ、子どもが家庭から外へ出て、友達と遊ぶようになると指しゃぶりは自然と減少する。5歳を過ぎると指しゃぶりは殆どしなくなる。

5)学童期:6歳になってもまれに昼夜、頻繁に指しゃぶりをしている子が存在する。特別な対応をしない限り消失することは少ない。

 

2.指しゃぶりの頻度

平成14年の東京都の井上らの調査によると、1歳2か月児(393名)、1歳6か月児(557名)、2歳0か月児(472名)、3歳0か月(695名)における指しゃぶりの頻度は28.5%、28.9%、21.6%、20.9%と2歳以降やや減少するもののの20%台であった。

また浅見らによると、平成8年に山形県での3歳児検診を受けにきた7,900名についての調査では、指しゃぶりの頻度は居住地により差はあるもののの12.9%~19.4%であった。

米津らによると指しゃぶりの頻度は4歳以降になると減少していた。

いずれも2歳をピークに減少する傾向を示している。

 

3.指しゃぶりの弊害

しゃぶる指の種類やしゃぶり方にもようるが、指しゃぶりを続けるほど歯並びや噛み合わせに影響が出てくる。指しゃぶりによる咬合の異常として次のものが挙げられる。

1)上顎前突:上の前歯が前方にでる。

2)開咬:上下の前歯の間に隙間があく。

3)片側性交叉咬合:上下の奥歯が横にずれて中心があわない。

指しゃぶりによる指の力により、上の前歯が前方へ傾斜してしまう為に生じるのが上顎前突です。また、上下の歯が指による押されることで、上下にかみ合うことができなくなるのは開咬です。このような歯並びのときには、前歯で食べ物をうまく噛みきれないなどの問題が生じることがあります。また、指をしゃぶることで、口の周りやほっぺたの筋肉が強く働き、上の顎を内側に押すことで上の亜顔の横幅が狭くなります。狭くなると、下の顎と上手く咬めなくなってしまうので、下の顎を左右のどちらかにずらして咬むようになります。これが交叉咬合になります。

また、このような咬合の異常により舌癖、口呼吸、構音障害が起こりやすい。指しゃぶりにより上下の歯の間に隙間があいてくるとその隙間に舌を押し込んだり、飲み込む時に舌で歯を強く押し出すような癖が出やすくなる。このような癖を舌癖という。舌癖のある児は話をするときに前歯の隙間に舌が入るため、サ行、タ行、ナ行、ラ行などが舌足らずな発音となることがある。

4.指しゃぶりの考え方

1)小児科医:指しゃぶりは生理的な人間の行為であるから、子どもの生活環境、心理的状態を重視して無理にやめさせないという意見が多い。特に幼児期の指しゃぶりについては、不安や緊張を解消する効果を重視して、歯科医ほど口や歯への影響について心配していない。

2)小児歯科医:指しゃぶりは歯並びや噛み合わせへの影響とともに、開咬になると発音や嚥下、口元の突出、顎発育への影響も出てくる。不正咬合の進行を防止し、口腔機能を健全に発達させる観点からも、4~5歳を過ぎた指しゃぶりは指導した方がよいという意見が多い。4歳以下でも習慣化の危険がある児に対しては指導する必要がある。

3)臨床心理士:指しゃぶりは生理的なものとしてながらも、4~5歳になっても持続する場合は背景に親子の関係の問題や、遊ぶ時間が少ない、あるいは退屈するなどの生活環境が影響しているので、子どもの心理面から問題行動の1つとして対応する。

 

5.指しゃぶりへの対応

1)乳児期:生後12か月頃までの指しゃぶりは乳児の発達過程における生理的な行為なので、そのまま経過をみてよい。

2)幼児期前半(1~2歳まで):この時期は遊びが広がるので、昼間の指しゃぶりは減少する。退屈なときや眠いときに見られるに過ぎない。したがって、この時期はあまり神経質にならずに子どもの生活全体を温かく見守る。

ただし、親が指しゃぶりを非常に気にしている、一日中頻繁にしている、吸い方が強いために指だこができている場合は4~5歳になって、習慣化しないために小児科医や小児歯科医、臨床心理士などによる対応が必要である。

3)幼児期後半(3~就学前まで):この時期になるとすでに習慣化した指しゃぶりでも、保育園、幼稚園で子ども同士の遊びなど社会性が発達するにつれて自然に減少することが多い。しかし、なお頻繁な指しゃぶりが続く場合は小児科医、小児歯科医および臨床心理士による積極的な対応が必要である。

4)小学校入学後:この時期になると指しゃぶりは殆ど消失する。この時期になってもなっても固辞している子、あるいはやめたくてもやめられない子の場合は、小児科医、小児歯科医および臨床心理士による積極的対応を行う。

 

 

長くなってしまいましたので、具体的な対応やおしゃぶりについては次回記載させていただきます。

ここまで読んでいただきありがとうございました。