自家歯牙移植 その1

みなさん、こんにちは。歯科医師の伊勢円です。

 

今回から、自分自身の勉強も兼ねて、自家歯牙移植について知識を深めていこうと思います。

 

()当院では扱っていない方法を含みます。

 

まず、自家歯牙移植とは、口腔内にある歯を同じ口の中の他の場所に移しかえる処置のことをいいます。保存不可能な大臼歯を抜いて、咬み合ったりしていない智歯を移植することが多いです。自家歯牙移植ができるかどうかは、X線写真、模型、その他の検査から診断して判断します。診査の中には、患者さんの治療や口腔衛生に対して理解があるかどうか、協力してくれるかどうかももちろん含まれます。

 

自家歯牙移植することで、入れ歯を回避することができる、ブリッジのために両隣の歯を削らなくて済む、インプラントより費用が安いなどのメリットが挙げられます。一方、外科的侵襲が必要になる、患者さんの年齢や移植する場所の状態によっては予後が悪くなるといったデメリットもあります。

 

最初に創傷治癒のメカニズムについてお話ししていきます。専門用語がたくさん出てきます、ごめんなさい。

 

十分な歯根膜が付着した歯を抜歯窩に短時間で再植すると、再付着による治癒が起きます。再付着とは、生きた歯根膜が周囲の組織と結合組織性に再び結合することです。歯根膜組織が正常な像を呈するまで1ヶ月以上かかりますが、骨縁上での再付着は13週間のより短期間で起こるようです。

 

しかし、移植だと抜歯窩の形態と移植する歯の形態が合わない、抜歯窩に歯根膜組織がないなどから、同じような治癒にならないことが多いです。抜歯直後から歯根と歯槽窩の間に血餅が介在しており、血餅は13週間で骨肉牙、26ヶ月で骨に置き換わると考えられます。

 

もうひとつ、新付着による治癒が認められます。新付着とは、病的、機械的に歯根膜がなくなってしまった根面に歯根膜組織が再生、付着することをいいます。歯を抜いてから再植立、治癒に至るまで歯の歯根膜がすべて生きている、全くダメージを受けていない保証はないので、移植、再植では再付着と新付着による治癒を期待します。

 

自家歯牙移植が成功するかは、移植する歯の歯根膜が生きているか死んでいるかによるところが大きいです。

 

(余談ですが)子どもが転んだときに歯をぶつけて抜け落ちた場合、抜けた歯を牛乳に浸しておくというのをよく耳にします。これは口腔外で歯根膜を生きたまま保存するのに有用です。牛乳や保存液中では歯根膜は数時間から24時間生存可能、生理食塩水では120分でも大半が生存可能、しかし水道水では120分で大半が死滅するそうです。(抜けた歯をゴシゴシ洗ってしまうと歯根膜がなくなってしまうので注意です!)

 

次回へ続く