歯科と糖尿病 その2

みなさん、こんにちは。歯科医師の伊勢円です。

微小な慢性炎症が続くと何が起こるか、前回は慶應義塾大学病院百寿総合研究センターの研究について学びました。関連のある研究についてもう少しご紹介していきます。

九州大学の研究です。平均的な日本人集団を有する久山町の住民を対象に、脳卒中、心臓血管疾患、糖尿病、認知症などの疫学調査が行われました。この研究では、CRP(炎症の指標、c反応性タンパク)と冠動脈疾患、糖尿病発症の関係について、いずれもCRP値がわずかに上昇するだけで発症するリスクが何倍にも高くなることが分かりました。

では、低レベルの炎症の原因とは何でしょうか?

ドイツで行われた研究で、出生後6ヵ月、1年、18ヵ月、2年、3年、4年、6年、10年、15年の順にフォローアップ調査が行われ、生活習慣や、体格、血清CRPCPI(歯周疾患に関する指数)が測定されました。項目のうち、CRPの上昇に影響を与えたのは順に毎日の喫煙、肥満、そして歯肉炎でした。15歳の若者ですら、歯肉に炎症があるだけでCRPが慢性疾患を誘発するレベルまで上昇することが分かったのです。 

糖尿病の診断基準は、

HbA1c 6.5%以上

絶食時血糖 126mg/dL以上

となっています。これより検査値が低ければ、糖尿病とは診断されません。しかし、わずかでもこの基準値より小さければ、その人は健康なのでしょうか?

この診断基準は、アメリカのピマインディアンという部族を対象にして、糖尿病網膜症の発症と各種血糖指標の関係をけ検討して決定した閾値となっています。糖尿病網膜症とは糖尿病の合併症のひとつですが、この網膜症が急激に増加し始めるレベルの閾値に基づいています。糖尿病予防するには、この閾値でスクリーニングしてては遅すぎるし、閾値より値が若干低いだけでは到底安心できないということが分かりますね。

米国糖尿病学会は糖尿病の発症予防のため、

絶食時血糖 100125mg/dL

糖負荷2時間後血糖 140199mg/dL

HbA1c 5.76.4%

を前糖尿病として注意喚起しています。

一方、日本糖尿病学会では境界型という概念を次のように定義しています。

絶食時血糖 110125mg/dL

糖負荷2時間後血糖 140199mg/dL

久山町研究のひとつに、HbA1cと脳心血管疾患の発症率の関係を調査したものがあります。その研究では、糖尿病領域であるHbA1c 6.5%以上でハザード比が上昇するのはもちろんのこと、未病であるHbA1c 5.5%の段階から脳梗塞のハザード比は3.6倍、心血管病のハザード比は2倍に上昇することが分かりました。つまり糖尿病を発症する以前であっても、血糖の上昇が全身の血管に影響を与えているということです。

次回へ続く