こんにちは!歯科医師の平山です。
普段診療していると、お口の中の乾燥感、それに伴う疼痛などの症状を訴える方が時々いらっしゃいます。症状がない方でも、健診をしているとこの患者さんは唾液の分泌が少ないのでは?と感じることもあります。
そのような方はひょっとしたらドライマウスという状態の可能性があります。
あまり聞いたこともない方も多いのでは?今回はドライマウスについてお話しします。
「口が渇く」「ネバネバする」「口臭がする」などの様々な症状をもたらす口腔乾燥症をもつ者は800万人と推定されています。口腔乾燥症は広義の疾患名として用いられ、最近では「ドライマウス」と呼ばれることが多くなっています。
唾液は、自浄作用、抗菌作用、湿潤作用、緩衝作用など多くの働きがあります。唾液は99.4%は水分ですが、この他に人の健康には欠かせない大切な物質が含まれています。口が免疫の第一の関門であるといわれる理由として、唾液に含まれるリゾチームやラクトフェリン、ペルオキシターゼなどの抗菌物質により細菌数を抑えることや、免疫グロブリンによって感染防御の重要な役割を果たしています。また、唾液には神経細胞の修復を促す神経成長因子(nerve growth factor;以下NGF)や体の表面または器官内表面をおおう上皮組織の細胞分裂を促す上皮成長因子(epidermal growth factor;以下EGF)が存在します。迷路学習障害のある老化ラットにNGFを投与することにより、学習能力の改善が認められたことや、また、NGFは脳の老化過程で残存する脳幹基底部のコリン作動性ニューロンを肥大化させ機能の改善に働くことが報告されています。つまり、よく噛んでたくさん唾液を出すことは、脳の活性化にもつながるのです。
ドライマウスの病状
この魔法の健康水である唾液分泌の減少により、口渇、口腔粘膜や口唇の乾燥感や疼痛、味覚異常、乾いた食物が飲み込みにくい、ネバネバ感、水を飲みたいなどの自覚症状が現れ、生活の質(QOL)を著しく低下させます。加えて、歯周病、う蝕、舌炎、口角炎、口臭、嚥下障害や誤嚥性肺炎の発症、上部消化管障害等にも関与することも報告されています。
その他、ドライマウスで見られることの多い口腔内所見としては、以下のものがあります。
- 口腔粘膜表面の乾燥に加えて粘膜の発赤
- 舌乳頭の萎縮
- 平滑舌(舌乳頭が完全に消失した状態)
ドライマウスの原因
ドライマウス原因として、臓器特異的自己免疫疾患であるシェーグレン症候群に代表される腺組織の器質的な障害によるものが挙げられます。しかしながら、シェーグレン症候群からドライマウスを訴える患者は全てのドライマウス患者の1割にも満たなく、その大半はシェーグレン症候群以外の病因により唾液分泌量の低下や質の異常をきたし発症することが報告されています。シェーグレン症候群以外の9割のドライマウス患者は、高血圧、糖尿病、動脈硬化、精神的ストレス、筋力低下、薬剤の副作用など様々な生活習慣を中心とした環境要因による唾液腺の機能不全が要因であることが推測されます。
ドライマウスは、口腔内に原因があるものと全身の健康状態に原因があるものの2つに大別されます。
<口腔内に原因のあるもの>
- 口呼吸
- 咀嚼回数の不足
- 嗜好品の過剰摂取
- 水分摂取不足
- 微量元素の摂取不足
- 過剰な歯磨き剤の使用
<全身の健康状態に原因があるもの>
- シェーグレン症候群
- シェーグレン症候群以外の唾液腺の疾患
- ホルモン・代謝系の異常(糖尿病や尿崩症、甲状腺機能異常)
- 発熱、下痢、嘔吐、過剰な発汗、出血などによる体内の水分量の減少
- 放射線による障害(がんの治療等)
- 神経性の要因(頭頸部の外傷や手術で唾液腺に関わる神経が障害されたとき、あるいはうつ病)
- 加齢による唾液分泌量の減少
- 薬物の副作用によるもの(利尿剤や降圧剤、抗うつ薬、抗不安剤、抗パーキンソン薬)