第五回口腔解剖学講座『舌の構造』

こんにちは、歯科医師、関です。
今回は口腔の中で大きな存在感のある軟組織である舌の構造と機能について紹介したいと思います。

舌は口腔底(口の中の下底部分)に位置し、下の歯のアーチの内側を占めています。
その大部分は筋肉からなり、その表面は粘膜上皮で覆われます。舌の筋肉は縦、横、垂直方向の3方向に走っており、それにより色んな方向に舌の形を変えることができます。

舌の機能は、摂食・嚥下と構音です。舌の機能として、食事をする際に味覚を感じることが広く知られていると思いますが、食事の際の舌の機能はそれだけでありません。口に入れた食べ物が咀嚼(噛んで細かくすること)するとき、舌は食べ物を歯と歯の間に移動させる働きをし、歯で食ベ物を噛み砕く時に、舌で食べ物を保持します。何度か咀嚼をすると、細かくなった食べ物が口の中のすきまや舌の上に落ちてくるので、舌はそれらを集め、反対側の歯に食べ物を移動させ、再度咀嚼できるように動きます。食べ物が十分細かくなると、舌は口腔内の食べ物を集めて咽頭(のどの奥)に送り込みます。
また、舌は言葉を喋る際の音の違いを作る機能(構音)も担います。例えば、カ行を発音するときは、舌を上顎の大臼歯あたり接触させます。サ行を発音するときは、上顎前歯の裏側にわずかに接触させます。
これらの機能はほとんど無意識で行われているため、あまり気に留めないですが、舌の大事な役割です。

次に、舌の構造です。

舌の表側のことを舌背と呼び、そこには様々な複雑な構造がみられます。舌は、舌背の奥1/3をV字に走る分界溝と呼ばれる溝で二分され、手前2/3を舌体、奥1/3を舌根と呼びます。
舌根は奥に位置するので、舌をベーっと出して見てもよく見えないですが、その表面には舌扁桃と呼ばれるリンパ組織が無数に見られます。
舌体には、4種類の舌乳頭と呼ばれる突起がみられ、味覚に関わっています。

・糸状乳頭
舌体全域に分布している、糸のように細かい乳頭です。表層の上皮は角化しており、白く見えます。糸状乳頭には味蕾(味覚の受容器)が存在しませんが、舌をザラザラにして、食物をなめとりやすくし、また舌の感覚を鋭敏にする働きがあります。
・茸状乳頭
糸状乳頭の間に散在する赤い粒状の乳頭。表面に味蕾が存在します。
・葉状乳頭
舌体の後部側面にある、垂直に走る数条の粘膜ヒダ。ヒダの側面に味蕾があります。
・有郭乳頭
分界溝の前に1列に並ぶ8〜12個の大きな乳頭。個々の乳頭は深い溝で囲まれ、溝の側壁に多数の味蕾がある。

葉状乳頭や有郭乳頭は大きな乳頭なので、何か悪いできものではないか?と稀に歯医者に相談される方がいますが、正常な舌の構造です。

以上、舌の構造と機能でした。