酸蝕症

歯科医師の平山です。

前回、う蝕、歯周病に続く第3の疾患として注目されている「tooth wear」について書きました。
「tooth wear」はアブフラクション(過剰な咬合力により歯肉縁付近にストレスを集中し生じる歯の崩壊)、咬耗症(歯と歯の接触によるすり減り)、摩耗症(歯以外の物理的な方法・手段によるすり減り)、酸蝕症(細菌の関与がない酸による化学的な歯質の溶解)が原因となっておりこれらは生活習慣が大きく関係していますが、皆さん意外と知らない方が多いかなと感じるのが食生活を中心とした個人の生活習慣が反映される酸蝕です。今回は特に「酸蝕症」について書きたいと思います。

酸蝕症の原因
⑴ 内因性
内因性の主な病因は、塩酸からなる胃液の影響と考えられています。胃液の pH 値は 1.0–2.0と強酸を示し、口腔内に逆流することで歯が溶け出すします。具体的な関連疾患として、逆流性食道炎、拒食症、アルコール中毒、摂食障害による嘔吐などが挙げられます。
⑵ 外因性
外因性因子としては、職業性因子ならびに非職業性因子(酸性飲食物,薬物・薬剤)に由来する酸が挙げられます。かつては、メッキ工場やガラス工場などにおける酸性ガスの吸引による職業因子が主たる原因でしたが、現在では、食生活習慣の変化に伴う酸性飲食物の過剰摂取が主流と考えられています。 すなわち、かつては特殊な歯の疾患と考えられていた酸蝕症への認識が、日常的に起こりうる歯の疾患へと変わりつつあります。

各種飲食物のpH値です。

 シュミテクトproエナメルホームページより

意外と酸性の飲食物は多いですね。

例えばこんな方はいませんか?

・ 常用的に炭酸飲料を飲用している
・ 部活やスポーツで常用的にスポーツ飲料を飲用している
・ 健康のためにお酢や柑橘類を大量摂取している
・ 晩酌でワインを毎晩飲んでいる

などの生活習慣のある方は要注意です。

歯のエナメル質が脱灰し始めるpHは5.5と言われています。酸性の飲食物をダラダラ摂取することによって、常時口腔内がpH5.5以下になってしまうと歯質が溶解してしまいます。

しかし酸性の飲食物のなかには健康に良いものもあり全く摂取しないのは難しいですし、健康的な食生活を変える必要はありません。正しい摂取の仕方をして歯に負担をかけないような食生活習慣を知っておく必要があります。

  • ダラダラ飲み、ダラダラ食べをしない
    ペットボトルでちょこちょこ飲んだり、間食の回数が多いと口腔内が中性に戻らず、酸蝕歯のリスクが高まります。
  • 酸性の飲食物を摂取した後にお水などの中性飲料で口をゆすぐ
    中性飲料を摂ることで口腔内が中性に戻る手助けをします。
  • よく噛んで食べたり、ガムを噛むことで唾液の分泌を促進する
    唾液は口腔内を中性に戻したり、歯の再石灰化を促進するのにとても重要です。
  •  炭酸飲料や清涼飲料水の摂取はほどほどに
    常用する飲料はなるべく中性に近い飲料の方が良いです。

皆さんも食生活習慣を見直して酸蝕症対策をしてみてはいかがでしょうか。

参照: 北迫勇一 酸蝕症の病態と臨床対応 日補綴会誌 Ann Jpn Prosthodont Soc 7 : 142-147, 2015